M&A・事業承継コラム

限界を迎える給食業界。事業を守る選択肢

病院、介護施設、学校など、私たちの社会インフラとして毎日の「食」を支えている給食(委託・製造)業界。

市場全体の規模は、新型コロナウイルス感染拡大による一時的な落ち込みを経て、現在は回復基調にあり、特に高齢化を背景とした「メディカル・シニア向け領域」は力強い成長を見せています。

しかし、業界全体が成長傾向にある一方で、個々の給食事業者が置かれている経営環境は、かつてないほど過酷さを極めています。「利益が出ない」「人が集まらない」「今のままでは事業を続けられない」と限界を感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、給食業界が直面している構造的な課題を紐解きながら、事業を終わらせる「廃業」ではなく、従業員や地域の食インフラを未来へつなぐための「M&A(事業承継)」という選択肢について解説します。

目次

給食事業者を苦しめる「3つの構造的課題」

現在の給食業界は、単なる企業努力だけでは解決が困難な、外部環境の急激な変化による構造的課題に直面しています。

  • 複合的なコストの高騰と「価格転嫁の壁」

    歴史的な円安や地政学的リスクを背景に、肉や野菜などの原材料費が軒並み高騰しています。さらに水道光熱費や物流費も上昇し、原価率は悪化の一途を辿っています。

    しかし、給食業界は公定価格(診療報酬や介護報酬)の枠内や自治体の入札制度のもとで事業を行うことが多く、施設側への柔軟な値上げ交渉が極めて困難な構造的弱点を抱えています。

  • 深刻な人手不足と過酷な労働環境

    365日3食を提供する現場では、早朝・深夜の勤務が常態化しやすく、過酷な労働環境から慢性的な人手不足に陥っています。

    熟練の調理師や管理栄養士の採用難は致命的であり、残されたスタッフへの業務負担が増大するという負の連鎖が起きています。

  • 物流2024年問題によるサプライチェーンの分断

    働き方改革に伴うトラックドライバーの時間外労働の上限規制により、これまで通りの食材配送が困難になっています。

    遠方からの新鮮な食材調達が難しくなるだけでなく、物流コストの異常な高騰が直撃しており、「食材が高くつく」だけでなく「届かない」リスクさえ顕在化しています。


 「自力での生き残り」か「廃業」か?限界を迎える前に

これらの課題に対し、生き残りをかけて、加熱調理した食品を90分以内に3℃以下へ急速冷却し、チルド帯(0〜3℃)で衛生的に保管、提供時に再加熱する「クックチル方式」の導入による厨房の省力化や、共同配送による物流網の再構築など、オペレーションの抜本的見直しを図る事業者もいます。

しかし、最新設備の導入には多額の資本投下が必要であり、中小規模の事業者にとっては単独での実行が限界に達しているケースも少なくありません。

資金繰りや後継者不在を理由に「廃業」を検討する経営者もいますが、給食事業の廃業は単なる「店じまい」ではありません。地域インフラとしての給食供給体制が崩壊し、長年苦楽を共にしてきた従業員の働く場所が失われることを意味します。

そこで注目されているのが、事業を第三者に譲渡する「M&A(事業承継)」という選択肢です。


 給食業界におけるM&Aは「見えない資産」が評価される

給食業界のM&Aにおいて、買い手企業が評価するのは工場や厨房設備といった「目に見える資産」だけではありません。献立作成のノウハウ、徹底された衛生管理体制、熟練の調理スタッフや管理栄養士といった「見えない資産(無形の資産)」こそが、企業価値の源泉として高く評価されます。

以下は、給食業界のM&Aにおける、譲渡(売却)側と譲受(買収)側の代表的な心理と課題を記載したものです。

譲渡(売却)側

  • 主な目的

    後継者不在の解消、従業員の雇用維持、地域インフラの維持、経営基盤の安定化

  • 解決したい課題

    コスト高騰による採算悪化、採用難と人手不足、単独での設備投資負担の限界

  • M&Aに求めるもの

    大手グループの資本力・購買力によるコスト最適化、従業員の労働環境の改善

譲受(買収)側

  • 主な目的

    メディカル・シニア領域への参入、スケールメリットの獲得、サプライチェーンの統合

  • 解決したい課題

    コスト高騰による採算悪化、採用難と人手不足、単独での設備投資負担の限界

  • M&Aに求めるもの

    既存の強固な顧客基盤、衛生管理・HACCP対応ノウハウ、現場を回せる熟練人材

異業種(食品卸売業など)や大手給食企業にとって、今の時代にゼロから専門人材を採用し、地域の施設との信頼関係を築き上げることは至難の業です。

そのため、「すでに完成された現場(人材・設備・顧客)」を持つ既存の給食事業者は、買い手にとって非常に魅力的な存在であり、双方が補完し合うことで強力なシナジーを生み出すことができます。


 事業を未来へつなぐために「自社の価値」を知る

業を未来へつなぐために「自社の価値」を知る

M&Aは「身売り」といったネガティブなものではなく、自社が築き上げてきた価値を正当に評価してもらい、従業員や顧客を守りながら事業を次世代へつなぐためのポジティブな成長戦略です。

M&Aを成功させるための第一歩は、「自社がどのような価値を持っているのか」を客観的に把握することから始まります。

「うちのような赤字部門でも買い手はつくのか?」「従業員の雇用条件はどうなるのか?」といった不安を抱える前に、まずは自社の収益の再現性や無形資産を評価する企業価値評価(バリュエーション)を行うことが重要です。

一時的な損益だけでなく、M&A後も継続的に得られる「正常利益」を基準に評価を行うことで、自社の本当の価値が見えてきます。


 地域の「食」を未来へつなぐために

給食業界は、社会構造の変化とコスト高騰の波を受け、明確な淘汰と再編のフェーズに入っています。

限界を感じて事業を閉じる前に、自社のノウハウや人材、地域とのつながりが持つ「本当の価値」に目を向けてみてください。

M&Aは、事業を終わらせる手段ではなく、事業を守り、発展させるための選択肢です。

経営の選択肢を広げるためにも、まずは現在の自社の事業価値がどれくらいあるのか、客観的な現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。

参考情報・引用元情報欄

本記事は、給食業界の市場動向および課題について、以下の公的機関および業界レポートの調査結果を参考に執筆しています。

文部科学省| 学校給食の安定的な運営に向けた取組の推進について
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/mext_00025.html

一般社団法人新調理システム推進協会|クックチルシステム
https://new-cook.org/system/cook-chill/

内閣官房(全国給食事業協同組合連合会)物流の適正化・生産性向上に向けた自主行動計画
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/jk_pdf/63.pdf

公益社団法人 日本給食サービス協会
https://www.jcfs.or.jp/

 

執筆パートナー

ウィザーズグループ

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コスト削減やM&A等を通し、限りある経営資源を最大化する「実働」コンサルティング集団

WEBページ

https://www.wizardz-plus.jp/

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