自社の成長戦略として、M&Aを積極的に活用する企業は着実に増えています。
しかし、M&Aはすべてが成功するわけではなく、買収後にシナジーが生まれず、むしろ業績悪化を招くケースも少なくありません。
本記事では、近年の飲食・食品領域を中心とした食(フード)業界のM&A事例を取り上げたうえで、成功する会社と失敗する会社の違いについて解説します。
目次
人手不足、原材料費の高騰、店舗運営コストの上昇など、飲食業界は変化のスピードが大きい市場です。
特に近年は、店舗ビジネスだけでなく、EC販売やテイクアウト需要、ブランド多角化など、新しい収益モデルの構築が求められています。
その中で、既存の事業基盤を活かしながら新たな領域へ進出する手段として、M&Aを活用する企業が増えています。
株式会社イートアンドホールディングスは、連結子会社を通じて、冷凍餃子のインターネット通販を展開する有限会社オーパスを子会社化しました。
オーパスは自社製造による冷凍餃子をEC(オンライン・インターネット通販)で販売し、「楽天グルメ大賞」を受賞するなど高い評価を得ています。
イートアンドホールディングスは外食・食品・ECを事業の柱としており、本件では既存の「大阪王将」「SAPPORO餃子製造所」に加えて、新たな価格帯と商品性をもつブランドをポートフォリオに追加。
多様な顧客層に対応できるブランド群を構築し、EC領域の成長ドライブを強める狙いがあります。
参考:大阪王将のイートアンドHD、冷凍餃子インターネット通販のオーパスを子会社化(Yahoo!JAPANニュース:LINEヤフー株式会社)
ロイヤルホールディングスは、介護施設や学童向けの定期おやつ宅配サービスを提供するたびスル株式会社を完全子会社化しました。
ロイヤルホールディングスはこれまで飲食チェーンをはじめとした外食産業を主軸にしてきましたが、今後の成長戦略として「人流に依存しない事業」への転換を掲げています。
本件M&Aは、既存顧客層とは異なる市場にアクセスし、安定的な収益源を確保するための事業ポートフォリオ再構築の動きといえます。
あみやき亭は、焼肉・ラーメン・ステーキなど複数ブランドを運営するクーデションカンパニーを買収しました。
クーデションカンパニーが強い京都エリアは、あみやき亭グループにとって未開拓エリアであり、今回のM&Aは地域展開のブリッジとしての役割を担っています。
既存事業と競合せず、シナジーが見込める地理的補完効果を重視した点が特徴です。
国内で高いシェアを持つキリンホールディングスは、2011年にブラジルの大手ビールメーカー「スキンカリオール」を約3,000億円で買収しました。
当時、ブラジルは年間10%成長が期待される有望市場とされ、現地の飲料市場に参入することで海外展開を加速させる狙いがありました。
しかし、買収後にブラジル経済が急速に減速。加えて、同国市場ではベルギー系ビール企業との価格競争が激化し、十分なシェア拡大が実現できませんでした。
結果として、事業価値が大きく毀損し、2015年には約1,100億円の減損損失を計上。最終的に、同事業は2017年にハイネケングループへ約770億円で売却されています。
この失敗要因として指摘されているのが、市場調査・事業性評価の不十分さ(デューデリジェンス不足)です。期待成長率や市場環境の将来性に過度に依存した結果、買収価格と実際の収益性に大きなギャップが生じました。
M&Aは「買収すれば成長できる」という単純なものではありません。
同じように事業を買収しても、業績が伸びて事業シナジーが生まれる企業もあれば、逆に管理コストや離職・ブランド価値の低下を招き、買収前よりも苦しくなる企業もあります。
その差を生むのは、M&Aに臨む姿勢・準備・統合プロセスの設計です。
M&Aを成功させる企業は、まず「なぜその会社を買うのか」という目的が明確です。
事業戦略の一部としてM&Aを位置付けており、買収によって得たい成果(新市場参入、事業拡大、技術獲得など)が具体的に描かれています。
さらに、買収後の統合作業(PMI:Post Merger Integration)を事前に計画しており、組織文化や顧客層の違いを把握したうえで、現場が混乱しないように調整を行います。
財務面や人材面もしっかりと分析し、期待するシナジーを現実的に評価する姿勢が特徴です。
失敗しやすい企業は、「とりあえず成長したい」「競争力をつけるために買う」といったように、目的やゴールが曖昧なまま買収を進めてしまうケースが多く見られます。
また、買収後の統合プロセスを十分に検討していないため、企業文化や仕事の進め方のギャップが現場で大きな負担となり、結果として人材流出や顧客離脱につながることがあります。
さらに、期待しているシナジーを過大評価して高値で買収してしまうと、投資回収が困難になり、経営に長期的な重荷を残してしまいます。
M&Aを成功させるうえで最も重要なプロセスが、デューデリジェンス(Due Diligence)です。
財務・法務・税務・ビジネスモデル・人材構成・取引関係といった要素を多面的に調査することで、下記の実行を可能にします。
適正な企業価値の算定
買収後に発生し得るリスクの把握
PMI(統合後の成果最大化)の事前設計
デューデリジェンスを軽視したままM&Aを進めると、「想定した利益が生まれない」「主要人材が離職する」「顧客が離れる」といった問題が顕在化し、M&Aの効果は大きく損なわれます。
M&Aは、買う前の調査と、買った後の統合で結果が決まると言っても過言ではありません。
本記事で紹介した事例に共通する点は、いずれも自社の中長期的な事業戦略の中にM&Aが明確に位置づけられていることです。
反対に、目的が不明確なまま進められたM&Aは、買収後の統合がスムーズに進まず、期待した効果を得られないことが多く見られます。
M&Aを成功に導くためには、まず「何のために行うのか」という戦略を明確にし、その上で対象企業の実態を丁寧に把握するデューデリジェンスを実施し、買収後の統合プロセス(PMI)を事前に設計しておくことが不可欠です。
M&Aは買収した瞬間がゴールではなく、そこからどのように価値を創出していくかが成果を左右します。
執筆パートナー | 加藤 良大 |
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パートナー情報 | ライティング歴10年超のフリーライター。医療・美容・制度・ビジネス全般など幅広いジャンルで専門家から高評価を得ている。執筆実績は2万本以上。3人の父であり、1人が障害を持っているため、児童関係の制度や介護に関する情報にも詳しい |
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